Dr.MANAの南仏通信〜フランスのエスプリをご一緒に…〜
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☆最も美しい廃墟・ジュミエージュ☆(2008.02.08)



その存在を知ってから、いつかはいってみたいと思っていたベネディクト派のジュミエージュ修道院。
7世紀に設立されて以来、ロマネスク、ゴシックなど数々の様式で増改築を繰り返し、栄えては忘れ去られ、最後は石切泥棒に略奪されるという運命を辿ってきた。その広大な土地には、修道僧を含め、ひと頃は1500人もの人が暮らしていたという。

ファサードはすでに骨格のみしか存在しない。全体もまるで骸骨のよう……。
けれどそこに佇んでいると、焚かれた香、祈りの声、静かなる生活感が次々と脳裏に甦ってくる。耳をそばだてれば、宙空間の回廊を歩く僧侶の衣擦れの音まで聞くことができる。


静寂の中でひとり。
大いなるものが与えた、生きとし生けるものに平等にやってくる死たるものを無意識に知る。私たちは皆いずれ去り、巨大な無機物だけが悠久の時を刻む。瓦礫を侵蝕する植物たちが、乾いた風にそよぐ。自然はどこまでも無情で、しかも優しく総てを同化していく。その真実に、私は安堵する。

かすかな痛みをともなって、その光景は心に刻みつけられる。
私が廃墟好きなのは、少年の冒険心をもっているからなのではなく、きっとタナトスを意識できる空間だからなのかも知れない。



ノルマンディ地方のセーヌ川下流を、プチフェリーに乗って渡る


スケールの大きさに驚愕


緑の絨毯が広がるかつての祈りの場
圧倒的な美しさにコトバを失う


回廊のあたり、人の立てるはずもない空間に
ふと黒い影がよぎった……


ここでは夏の夜、音楽祭(ノクターン)が開催される
『コウモリの夜』なんていうのもある


廃墟には緑が似合う


遠くで見たら墓標に見えた、お茶目な巨大チェス盤